わかちあい以外の活動2:対社会的活動

 

「わかちあい」は自助グループの中核的な活動だ。しかし、自死遺族の「わかちあい」は、遺族だけで行われるため[i]、「わかちあい」しか行わないのであれば、当然のことだが、自死遺族への理解はグループを超えては広がらない。遺族の社会的孤立は、そのままである。

 遺族であることは目に見えない[ii]。だから、遺族自身が声を出さないかぎり、遺族がそこにいることすら社会は気付かない。専門家たちが「自死遺族に偏見を持たないように」と繰り返し言っても、一方で、遺族自身が沈黙していれば、社会は「遺族は発言できないのだ」と考えるようになる。あるいは、そこまで意識することなく、遺族は自分から遺族であると明かすことは通常ないと信じるようになる。社会の側に、そういう思い込みがあれば、自死遺族の社会参加はますます難しくなるだろう。

 「わかちあい」以外の茶話会、交流会などの集まりでは、遺族以外の人たちも集まるが[iii]、そこは遺族が中心の集まりであるから、遺族のことを社会が意識するきっかけにはならない。茶話会に参加する遺族以外の人たちは、遺族の存在に気づいたから参加しているのであって、当然のことながら、その逆のこと、つまり参加することによって遺族の存在に気付くのではない。すなわち、茶話会をどんなに開いても、それによって遺族への理解が、社会に広がることは期待できない。

 とすれば、「わかちあい」や茶話会、交流会以外にも活動を広げなければ、遺族の声は社会に届かない。それが、ここでいう対社会的活動である。具体的には、講演会・シンポジウム等の開催、政策策定、審議会への参画、マスコミへの対応、また自助グループに未だつながっていない遺族への支援等があるだろう。

 この対社会的活動を行うことについて、大きな障壁になるのは、一般社会からの自死遺族への差別と偏見だろう。対社会的活動をするためには、自分自身が自死遺族であると不特定多数の人々に明かさなければいけない。そうなった場合に、どんなことを言われるのか、どんな態度をとられるのか。自分だけではない、自分の家族や子どもにどんな言葉が投げつけられるのか、という不安がある。親族の反応も怖い。自死の事実を隠し続けるように家族に求めた親族もある。

 「一般社会からの自死遺族への差別と偏見」とは、不特定多数の人から受けるという意味で、もちろん現実にあったものも含まれるだろうが、遺族自身の想像や、そこからくる恐怖感からくるものもあるだろう。それは自死がある直前まで「一般社会」の一員であった自分自身の反映でもある。

 「自死や自死遺族に対して、私自身も(遺族になる前は)偏見をもっていた」と語る遺族は多い。「内なる差別」といっていいだろうか。その偏見や差別意識が、自分自身が遺族になったからといって突然消えるわけでもない。人に向けていた刃が、いきなり自分のほうにも向けられた感覚だ。対社会的な活動に参加していくためには、遺族は「内なる差別」とも闘わなければいけないのだろう[iv]

 いや、一般社会からの差別や「内なる差別」よりももっと具体的で衝撃的なのは、職業あるいは仕事として、自死の直後から遺族とかかわってきた人々の言動だろう。たとえば、遺体検視にかかわる警察官、葬儀を行う僧侶などの宗教者、自死の場になった不動産物件の所有者、遺族支援にかかわる行政・非営利団体の職員、これらの人々がもっている自死遺族像に一方的に当てはめられ、悔しい思いをしたという遺族の話は何度も聞いた[v]。こういう人々は、職業上、自死遺族に何度も会っているし、会ってはいなくても職業上のつながりから「対応」の仕方を学んでしまっている。一方の遺族は、ほとんどの場合、遺族になることは初めての体験である。何も準備もないまま、突然リンクの上に立たされた人と、何年もやってきたプロのボクサーとが、いきなりボクシングの試合をするようなもので、ゴングの音が鳴り響く前に勝敗は決まっているようなものだ。しかも遺族は、愛する人を自死で亡くしたばかりで、疲労困憊し、全く平静さを失っている。

 こういう危機的な状況にある遺族を支援するのも、自助グループの重要な対社会的活動である。自助グループにまだつながっていない遺族への支援だ。消防団のように緊急出動する必要はない。たとえば、全国自死遺族連絡会が2018年に作成した『自死遺族が直面する法律問題:自死遺族支援のための手引』[vi]は、遺族の自助グループの対社会的活動の重要な成果だと思う。

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[i] わかちあいのルール1:当事者だけで

[ii] 遺族であることは、人には見えない

[iii] わかちあい以外の活動1:茶話会・飲み会・食事会

[iv] 自死遺族への偏見の構造

[v] 田中(2015)

[vi] 全国自死遺族連絡会(2018)

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